大判例

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東京家庭裁判所 事件番号不詳 審判

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人の申立趣旨並理由

本籍東京都港区芝高輪南町六十六番地筆頭者多賀満の戸籍中申立人の戸籍記載中「中華民国台湾省台南県斗六区斗六千百三十五番地張済東と婚姻届出昭和二十二年五月五日品川区長受付同二十八年二月五日送付除籍」と記載してあるのを「中華民国台湾省台南県新六区新六六千百三十五番地張済東と婚姻届出昭和二十二年五月五日品川区長受付」との訂正許可審判を求めると云うのであつてその理由は「申立人は昭和二十二年五月五日当時日本人たる張済東と婚姻したが、その後講和条約発効により夫張済東は日本国籍を喪失したしかし妻たる申立人は夫の国籍を取得した事実なく仮りに中華民国の法律が一方的に妻たる申立人に国籍を付与したとしても申立人は国籍法第十条による国籍離脱の届出をしないから日本国籍を喪失しないその他申立人は国籍法第八条により外国に帰化した事実もなく又同法第九条に該当する者でもない戸籍上「荏原郡大崎町大字下大崎四百四番地に於いて出生」とあり明白である。

然るに東京都港区長は「中華民国台湾省台南県斗六区斗六千百三十五番地張済東と婚姻届出昭和二十二年五月五日品川区長受付同二十八年二月五日送附除籍」し申立人の日本国籍を抹消した

おもうにそれは旧国籍法(大正五年三月十五日法律第二十七号国籍法の前の国籍法)のそれに規定する「外国人の妻となりたる日本の女子は直に我が国籍を失ふ」ものの如く誤解し夫が日本国籍を喪失した事に伴ひ妻も当然日本国籍は失ふものと誤認したもののようである。

或ひは又「送付除籍」により本件申立人の日本国籍喪失と云う重大時に立至る可べき事に思ひ及ばず単に日本人間の婚姻の場合と同一に取扱つたものかとも思われる本件にあつては婚姻の届出ありたる旨の身分登録に止め除籍すべきではないと存じます

旧国籍法第二十一条は「日本の国籍を失ひたる者の妻及子がその者の国籍を取得したる時は日本の国籍を失ふ」と規定するけれども現行国籍法はかかる場合でも第十条に則り法務大臣に対し国籍離脱の届出をしなければ国籍を喪失しないのであります

申立人は現在夫の国籍を取得しておらず勿論国籍離脱の届出も致しません

以上の次第で申立人は日本国籍を失つてはいないのでありますから本件申立人の戸籍に「除籍」と記載する事は法律上許されないものであります依つて申立趣旨記載の通り戸籍訂正御許可相成り度く戸籍法第百十三条に則り申立致します」というのである。

却下理由

本件の要点は旧国籍法施行当時に於ける日本人女子と所謂第三国人外地人男子との婚姻に依る日本人女子の戸籍の除籍記載の当否と云ふことである

而してこの点に関する戸籍記載の取扱例には変遷が有り関係官庁の通牒回答等によれば当初は日本人女子の戸籍の身分事項欄に婚姻事項を記載するに止め、除籍記載をしない例であつたが、その後本件の如く戸籍記載の取扱例に改めたものである。従つて本件戸籍に関して申立人及関係人等の戸籍届出或は戸籍事務管掌者の戸籍記載に於いて錯誤、遺漏のあつた事実はない。只右取扱例による戸籍記載が法令上許されないものであるか、即ち違法なものであるか否かの点が検討されなければならない。元来戸籍簿に登載せられるべきものは日本国籍者に限り、又日本国籍者はすべて戸籍簿に登載せられるべきであるから、若し終戦後講和条約締結に至るまでの間の外地人が日本国籍者にあらずとするときは当該人と婚姻した日本人女子はその者の属する国の法令が明かでない関係上、一応条理に基き(旧日本国籍法の趣旨)当該国籍を取得したものとして戸籍簿より除籍することもさることながら、これが法令の明確になる迄、或は国籍喪失届の提出される迄除籍の記載をしないのが、より相当であると思料される(申立人提出に係る申立人が中国国籍を取得しなかつた旨の証明書は措信しない)、若し又終戦後の外地人の身分国籍につき法令上依然日本国籍者であると解する外はないとしても国家主権が事実上外地に及ばす従つて届出書副本等の送付連絡もなされ得ない状態でなつたのに鑑み、申立人の説く如く本件除籍の記載を為すべきでないと云うことは首肯されないこともない(殊に申立人の婚姻当時の戸籍法(旧法)第三十五条に則れば申立人についての除籍記載は許されなかつたものであるが、其の後戸籍法改正に依り右第三十五条は削除せられた結果、新法附則百三十条によりその取扱は違法でなくなつたから右理由による戸籍訂正は理由がないこと勿論である)。併し本件戸籍記載の取扱例の当不当の点は格別、これを違法であるとは解し得ないので当裁判所に於いて申立人に関する戸籍記載が違法でない限り不当であるとしてこれを是正するための戸籍訂正は許容すべきでない。けだし家庭裁判所は戸籍事務に関し戸籍事務管掌者の上級監督官庁でないから戸籍事務管掌者の処分が違法であるときは戸籍法第百十八条特別家事審判規則第五条に則り戸籍事務管掌者に対して相当処分を命じ得るけれどもそれが不妥当として妥当処分を命じ得るものではないからである。仍つて申立人の申立は理由のないものとして主文の通り審判する

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